extra edition#2 小匙一杯の罪と罰


「二番隊? に……二番隊!? いや、おかしいでしょ。正気ですか? あなたの所属隊は、傍から見てもこれ以上ないエリート部隊ですよ」
「対ニーベルングという点ではね」
「いや、ですから……」
 自分たちが身を置く組織は、まごうことなき対ニーベルング機関だ。それ以上でもそれ以下でもないから、万能である必要はない。彼はこのにこにこ顔でクーデターでも起こそうというのか? などという末恐ろしい思い付きがサブローの脳裏をよぎる。
「クーデターかなんか起こすつもりですか」
脳裏をよぎったら、たまらず口をついて出ていた。自分の不用意な発言と考えに嫌気がさしてすぐさま頭を抱える。サクヤはただ笑っていた。
「そんなことしなくても、グングニル機関は遅かれ早かれ消滅する組織だよ。そうでなければ、僕らがこうして魔ガンを手にする意味はないと思わない?」
「まあ言われてみればそうですが。……ん? いや、だからそれとこれとは話がかみ合いませんよね。何度も言いますが俺はもう、撃ちたくないんですよ。というより、ここぞというときにまともに撃てない。自分で言うのもなんですが、隊のガンになるとしか思えません」
「別にそれで構わないよ。だいたいさっきのは誰が撃っても撃たなくても結果は変わらなかったし。正直に言うと、僕も撃ってない」
 文字通り空いた口がふさがらない。戦闘の爆撃音の中だからこそ、そのきわめてぎりぎりの発言はサブローにだけ聞こえたようだったが、サクヤにはとりわけ声をひそめようという素振りもなかった。
「目的をはき違えないなら、君の力は僕の隊で最大限に生かせる。僕らのやるべきことは、魔ガンを撃つことそのものじゃないはずだからね」
「はあ……」
生返事をするしかできない。サクヤの言葉は、確信めいているようで具体的な事柄は何一つ盛り込まれていなから理由も目的もあやふやなままだ。詐欺師かペテン師か、あるいは何かのお告げのように象徴的である。
 それらが不思議と不快ではない。言動の正当性はともかくとして、彼の魔ガンの銃口は、正しい方向へ向いているような気がした。
「俺は……」
「おい、ふざけるなよ! どこの隊だ、上から馬鹿みたいに岩降らしてきやがってぇえ!」
「サクヤ隊長、中層の部隊から相当数クレームがきてます。っていうか、あんたちょっと働いてくださいよ! 雑魚ばっかりだと思ってふんぞりかえりすぎです!」
 すぐ近くで魔ガンの発砲音と爆撃音が鳴った。それにかき消されないように大声を張り上げる小隊の隊員。よくぞ言ったというような本音のかたまりである。返す言葉もなく後頭部をかくサクヤを見て、サブローも自然に苦笑がもれた。
「とりあえず、仕事を片付けましょう。何をどうするにも、一定の『名誉』は必要でしょう? あなたも、たぶん俺も」
 サクヤもあきらめたように嘆息して、再びジークフリートを構えるに至った。ホシムクドリの後に上層に昇ってくるニーベルングは明らかにただの無鉄砲かはぐれ者であったし、狙撃部隊である三番隊はすでに陣形を組み直し、盤石の体制を築いている。サクヤの仕事は八割がた終わっているといってもよかったが、それを体現することはどうやら許されないらしい。
「そうだね。行こうか」
 一足先に爆撃音の中へ舞い戻るサブローの背中を目にして、サクヤは少しだけやる気を取り戻して笑みをこぼした。
 サブロー・キサラギ准尉がサクヤにその選択と意志を伝えるのは、作戦終了から三日後のことであった。