ガサッ-ペンギンたちの賑わう声の中にそぐわない草をかき分ける音が響く。わざとなのか不可抗力なのか、彼の登場にカフェにいた
ペンギンも人間も皆が大注目した。彼、サンダーはそれに大満足のようだ。ワンテンポ遅れて部下の二人がそそくさと横に並ぶ。
「……は?なんでてめぇがこんなところにいるんだよ。めんどくせぇな」
露骨に顔を顰めるレキ、意外だったのはそれ以上に警戒する砂漠ペンギンたちの行動だった。皆一斉にレキたちのテーブルへと寄り
集まってくる。
「何故?……何故だと?笑ーー止!!手長ゴーレムに囲まれ、緊張の糸が切れたフレイムを潰しに来てやったのよ!ここで会ったが百年目!!
……いや96回目か、西スラムの覇者サンダー様がこの砂漠をフレイムの墓場に変えてくれるわーっはっはっ」
ここでの皆の行動は誰が指示したというわけでもないのに一貫していた。半眼で、もしくは口元を引きつらせて両耳を塞ぐ。
「どうでもいいからさっさと消えろよ、うざってえな」
「そうね、暑苦しいし」
派手な登場と気合いの入った宣戦布告をあっさりスルーされ、流石に言葉を詰まらせるサンダー。96回目ともなるとレキの対応も
慣れたもの、かつ冷淡だ。その上、サンダーはレキが不機嫌な時か、逆に至極良い気分の時を見計らったように現れる。今回の場合は
後者で、冷めてきた珈琲を苦虫を潰しながら見やった。
「ブラッディローズまで一緒くたたぁ、都合がいいぜ……!まとめてたたきのめーす!!」
「それはこっちの台詞よ、イカレ野郎」
即座に立ち上がってアサルトライフルをサンダーに向けると、ラヴェンダーは顔色ひとつ変えずトリガーに指をかける。余りの対応の
早さにレキも、エースも反射的に椅子ごと仰け反ったのに、シオは勇敢にもラヴェンダーの腕をひっ掴んで彼女を制した。
「?何で止めんの?さっさとやっちゃった方が静かでいいでしょ?」
極上の作り笑いで、怯える砂漠ペンギンたちを指さすシオ。ラヴェンダーも察してライフルを下げた。
ペンギンたち以上に怯えているのは照準を定めらたサンダーだ、部下二人を力ずくで前に押し出して盾代わりにしている。銃口が
下げられたことに気付くと、その二人を再び押し戻してしゃしゃり出てきた。
「ど、ど、どーしたあ!?サンダー様に恐れを成したかブラッディの雌犬めっ。所詮は女!スパークスの頭であるこの俺に敵うはずが-」
「……やっぱつぶす」
今度はテーブルの上に片足をのせて、スコープに片目を近づける。(お行儀が悪いので良い子のみんなは真似しないでね☆)流石に
レキもエースも引け腰ながらも協力して彼女をなだめた。視線の先では三馬鹿トリオが押し合いへし合い盾役を押しつけ合っている。
「何で火に油を注ぐようなこと言うんですか!?ヘッドが前行ってくださいっよっ!」
「バカ者ー!スパークスの一員ならヘッドを死守するくらいの意気込みを見せろ!情けねぇ奴らだなっ」
「言ってることがめちゃくちゃっすよっ。もう荷物取り返して帰りましょうよ~!」
ラヴェンダーも殺気が萎えたのか深々と嘆息して椅子に腰掛け直す。そこにレキとエース、それにシオの安堵の溜息が重なり、少し
離れた位置でハルとジェイの唖嘆が覆い被さった。
何をしに出てきたのか、内輪揉めを始めたスパークスを苛々しながら見やっていたレキがふと一羽のペンギンに目をやる。小汚い
革製の袋を背負って、他のペンギン同様レキたちに身を寄せている。
「……荷物がどうとか言ったな。……ははぁー、これ、ね」
レキが何やら荷物を背負ったペンギンを言いくるめて(?)それを受け取ると、さっそく中身を物色。ダブルアクションリボルバーが
一丁、これはおそらくサンダーのサイドアームだろう、見覚えがある。残り僅かな水と缶詰などの食糧、ライター、要は砂漠横断に
必要なものがごっそり入っているわけだ。
レキが次々と中身を取りだしていく傍らで、荷物を持っていたペンギンがそわそわしている。
「どうした?これに何かあんのか?」
へっぴり腰でサンダーの銃をつつくペンギン。器用に指で銃型を作って「発射」をジェスチャーした後に、その長い両手を挙げて逃げ
まどう様子を再現する。そう、再現だ。最後にいじめっ子を先生に告げ口するようにサンダーを指さしたことでレキも確信した。
「なるほどね。ペンギン相手にぶっ放したわけか、どうしようもねえな」
「ペンギンだとぉ?それのどこがペンギンだ!どっからどう見ても手長ゴーレムじゃねえか!」
確かに手は長いが。エースがサンダーの露骨なアホさ加減に肩を竦めた。
「レキ。……もういいからやっちまえ。こんなクソ暑いところでクソ暑い顔なんか見たくねえ」
「異議なし。なんだったら貸すわよ」
そろいも揃ってさらりと暴力的な発言をかました挙げ句、ラヴェンダーがライフルを差し出す。それをやんわりと拒否してレキがペンギン
の群から一歩踏み出した。勿論、得意気に指を鳴らしながら。
「そんじゃあ期待に応えてぱっぱっと片づけるか。食後の良い運動になるし」
「はっ!ほざけほざけ!最後に笑うのはこの俺様-」
ドゴッ!!-珍しく鈍い音がした。いつもならこの一発で夜空のお星様になるか、とてつもない声量の悲鳴があがってこの手の音はかき
消されるのだが、今回せっかちにもサンダーのお喋り中に正拳突きなどお見舞いしたせいで不快の音がこだましたわけだ。反射的に
顔を歪めるギャラリー同様、レキ自身も苦虫を潰す。仰向けに倒れ込んだサンダーの顔を覗き込むように屈むと、それを見計らったかの
ようにサンダーに寝たまま膝蹴りなんかを繰り出される。
「っと」
レキが仰け反るのを追うように、サンダーがリズム良く跳ね起きる。珍しくまともに足払いなんかを決めてきて、珍しくまともに上段、
中段、フィニッシュに回し蹴りなんかも見せてくれる。ちなみにレキは感心しながら通常通り難なくかわしていた。
「なんかヘッドが頑張って見えるよ……!応援したくなるなっ」
「ヘッドも必死なんだよ……。頑張れ~ヘッド~!」
涙ぐむ下僕たち、展開を見守るペンギンたち、息つく間もない両者の攻防、のはずがそこにぴりぴりした緊張感のようなものはない。
原因は欠伸を漏らしながら結果を待つフレイム側だ。
「何もたもたやってんだー、日が暮れちまうぞー」
エースの野次が声援代わりだ。残りは愛銃の整備をしたり、珈琲のおかわりをつぎ足したり、極めつけはいびきをかいて本寝に突入する者
だ。黄色い声援が無いことにレキもやる気を失って、時間を稼ぐのを止めた。
「どうしたあ!やる気があるのかぁ!?」
「……そんなもんないに決まってんだろ」
よくもこれだけ無駄に動いて、更に大声も張り上げて息が上がらないものだ。サンダーのタフさだけには何気なく敬意を払いつつ、
ようやくレキが“ただかわす”のを止める。サンダーの渾身のパンチを腕ごと掴んで引き込むと、見事な上体移動で背負い投げ、地面
に叩きつけた。
スパークス側の応援が瞬時に止む。またもや仰向けに倒れて放心するサンダーの周りに微かに砂埃が舞った。
「ま……まだまだぁ!!」
「もう勘弁してくれよ……」
起きあがろうとするサンダーを押さえつけて、至極嫌そうな顔を晒す。掴んだ腕を軸にサンダーに馬乗りになると、ここで初めて力を
込めて標的を俯せにする。次に響くのは今までになく悲痛な断末魔だ。
「うっぎゃああああああああ!!」
下僕が二人揃って目を反らす。サンダーの雄叫び(約20秒間)の間に様々な聞き苦しい音が鳴っていたがそれらは全て、彼自身が
オブラートとなって他者に届くことはなかった。本来とは逆向きに反り返った腕を見て、フレイム側も思わず同情の色を見せた。
ひとしきり絶叫し終えると、ようやくぐったりと全身から力が抜ける。サンダーが失神したのを確認して、レキが両手をぶらつかせ
ながら身を起こした。
「ヘッド~~」
「しっかりして下さい、ヘッドっ」
気の毒なのはあの二人だ。派手にやらかしておいて、レキも跋が悪そうに頭を掻いた。
「何したの?」
動かなくなったサンダーを遠巻きに見て、ラヴェンダーが声をかける。
「いや……当分追っかけて来れねーように間接を……」
「うわっ極悪っ」
「非道~」
ジェイが後ろから付け足す。
「ちょっと待てよ……!さっさとやれっつったのはそっちだろ!」
泣きわめくスパークスの二人を哀れみの瞳で見守るフレイム勢、このゲンキンさにはレキも舌打ちを漏らすしかなかった。