ACT.4 ラクエンニワカレノキスヲ


「出たぞ!一匹残らず仕留めろ、逃がすなよ!!」
白い制服の一人が、レキたちが四散するのを指さす。正真正銘連合政府の制服だ、わかってはいたが改めて苦虫をつぶした。
ユニオンらしき男が5、6人、そして残りは馴染みの地方警察の制服がざっと100人余り。 少なくとも数にしてフレイムの5倍の人数を相手にするのは無謀以外の何でもない気がした。
「おいおい、いつもは適当に巡回してただけだったのにやっと仕事する気になったのかよ!」
ダンダン!!-やはり地方警察はやることが甘い。組まれた隊列を乱すことなく順番に発砲してくる。それでも数集まれば厄介だ。
「5番手、撃てー!」
横一列に並んだ濃紺の連中が肩にアサルトライフルを担いで一斉に引き金を引く。
近くのドラム缶にとっさに身を隠す者あり(レキ)反射的に地面に伏せる者あり(ハル) 本能的にアジトに引き返す者あり(エース)で、開け放したままの本部にもライフルの弾が激しく降り注いだ。
ジェイが丹精こめて修理したアジトのシンボル・テレビのブラウン管が容赦なくはじけて割れる。銃声と悲鳴と倉庫内の物がはじけ飛ぶ音が響き渡っていく。
「エ~~~~~ス!何帰って来ちゃってんだよ!!前衛だろ、何とかしろよー!」
とりあえず銃声に耳を塞ぎながらベータがエースを押し出そうとするも、エースは本気でかぶりを振ってあげくに煙草に火を点け始めた。
「行けっつったってこんな中飛び出してったら命がいくつあっても足んねぇだろうが。死ぬ前にせめて一服……」
エースが至福のひとときを味わおうとした瞬間、いともあっさり戦場へ投げ出される。 猫でも放り出すようにあっさりだ、クイーンの極太の二の腕がエースを引きずり出していた。
「あたしたちも本部から出るわよ!留まってたって袋の鼠よ!」
クイーンの判断は的確だった。身を潜めたレキとハルを狙うより建物内の方が遥かにあぶり出し易い。次の発砲は本部に集中的に行われた。 割れる窓ガラス、空のビール瓶が耳の側で粉々になっていった。
「案外もたなかったな……!エースの野郎、後で蹴り飛ばしてやるっ」
一部始終ドラム缶の陰から見ていたレキ、引き金を引いたかと思うとまたすぐに身を潜めた。
匍匐前進で移動するハルに向かってせっぱ詰まった表情で手招きする。ハルの頭上には矢のようにライフルの弾が横切っているにも関わらず、だ。
無論ハルはすぐさま高速にかぶりを振るも、レキはさらに高速で手を振る。
仕方なしに這い蹲ってレキとの合流を試みた。
「お前……!ちょっとはこっちのことも考えろって!だいたい散れって言ったのはレキの方だぞ」
「分かってるって、弾がねぇんだよ!!……分けてー」
「はぁ!?ストックは?」
「銃ごとジェイに投げた」
証人なら腐るほどいる。ジェイの苛立った発言を勝手に買って自分のサイドアームであるデザートイーグルを放り投げたのは全員が知っていることだ。
思い出してハルは唖嘆すると共にがっくりと肩を落とした。ジャケットの内ポケットからカートリッジを取り出す。
「……俺ももうこれしか残ってない。弾が尽きたらどうする?」
「エースがいるだろ。最悪何人か捕まったとしても誰も死なすなよ、ダメそうだったら無理しねえで手ぇ挙げろ。……俺か、他の連中が何とかする」
ハルに差し出された弾を受け取って手際よく詰める。
おそらくレキがこうしたことで先にピンチを迎えるのはハルだろう、おそろしく自分本位な気もするがサブヘッドとは本来そういう損な役回りだ。 ヘッドの補佐とは、平たく言ってしまえばレキの尻拭いである。
「レキこそさっさと手ぇ挙げちゃえよ。死んでもしらねぇぞー」
「誰が、降伏なんかするかよ!!」
今ハルから奪ったばかりの弾が早くも火を噴いて発射される。
ハルの肩越しに、こちらを嗅ぎつけてきた地警の腕を撃つ。そのまままたもや理不尽にハルを押しのけて飛び出していく。
「来るぞ!ぼやぼやすんなよ!!」
「分かってるよ!ギリギリまでなんとかしてみせるっての!」
こちらは弾丸も体力も節約生活まっしぐらなのに対して、ユニオン側はほぼ無限大である。ド突いてもぶっ飛ばしても、しばき倒してもふりまわしてもきりがない。 あてにしていたエースは本部の連中の守備と逃亡の手引きに回ってしまったし、本当にハルと二人で何とかしなければならないようだった。
「建物の中を狙え!あぶり出せばこちらのものだ!」
どこからともなく叫ばれる声に、レキは舌打ちして踵を返した。全速力で本部へと戻る。 ハルの残りの弾数が気がかりだったが、ここで全員捕まるわけにはいかない。
シャッターを盾に応戦中のエース、その横からレキが滑り込んだ。
「もたもたしてんなよっ。外出ろ!」
「捕まるぞ!?相手はライフルにマシンガンだぜ!?」
ジェイが握っているのは紛れもなくレキの銃だ、目に入れるとすぐにそれをぶんどってほぼからのメインアームをジェイに押しつけた。
「ジェイの大好きな爆裂系だろ?ラヴェンダーだと思って相手して来い!」
浮かべた会心の笑みに特に意味はない。強いて挙げるなら開き直りからのもので、決して勝利を確信した故のものではなかった。
レキはあわただしく再びシャッターに手をかける。残っている男性陣に目配せして、最後にケイたち女性陣に合図した。
「ケイとクイーンはシオ連れてハルと合流なっ。残りは……分かってんだろーな?」
苦笑いする者や、片腕挙げる者、いずれにしても皆手っ取り早い方が好きな連中だ。腹をくくって同意を示した。
「暴れるぞ!!思う存分ぶっ放して来い!!」
シャッターを開け放し、たなら一瞬で蜂の巣だ。あちらさんは手加減などしてくれないためここは仕方なしにこそこそと外へ出る。 それでも当たり前だがレキ達の行動は目に付くわけで、ユニオン側はすぐさま体制を整え始めた。
「死なない程度に無茶苦茶やんぞ!俺のチームに手ぇ出したこと後悔さしちゃる!!」
「死体でもかまわん、全員ガキ共を始末しろ!やれー!!」
何度も言うがユニオンは地警程甘くない。そしてとりわけ正義や道徳をかざすような組織でもない。 秩序と規則、あるいは世の太平という大義名分をぶらさげているだけで本質はデッド・スカルと似たようなものである気がした。
「それがお前らのやり方かよ……!仲間は渡さねぇ!誰ひとりな!!」
今度は防戦一方ではない、レキたちの方から間合いを詰めて自分たちに有利な距離を築く。 下手に離れて連射系をところ構わず撃たれるより遥かに賢明だ。日々他チームと入り乱れ抗争を繰り返すフレイムにとって接近戦はお手の物だった。
「調子こいてんじゃねぇぞ下っ端あ!」
群がる地方警察の制服に青筋を立てながらひじうちをお見舞いするベータ。
チャーリーもダイも寡黙に応戦している。
陰の方から彼らをライフルで狙う狙撃手はフォックスが後ろからナイフで潰してくれた。
ギブス特製の派手な爆竹が四方八方で鳴る中、それをカモフラージュにケイたちが逃げる。
レキが視線を走らせる先では、事は思いの外うまく進んでいるようだった。
「やっべーよ、レキ!弾が尽きた!」
そりゃそうだろう、ジェイの銃はレキの使いかけだ。などと納得している場合ではない、ジェイを伏せさせて、レキは何発か威嚇射撃する。
「俺かエースの後ろにいろよっ。向こう側もそろそろしびれきらしかけてっからな」
エースは銃に関しては右に出るものはいないが、弾が尽きると同時にあっさり白旗をあげるタイプでもある。身の安全を考えてジェイはレキの支援に当たることにした。
「俺の弾が尽きたら逃げる準備するぞ……!ムカつくけどこの人数じゃ潰される、分が悪すぎるからな」
「わかってるって、その前に一泡吹かせてやろうぜっ!」
ジェイがヘルメットを深く頭に押さえつけながら、ズボンのポケットからかわいらしいデザインの小型ダイナマイトを取り出す。 小さいながらもしっかりフレイムのロゴマークが刻んであるのはジェイのこだわりだろう。