ACT.7 インベーダーゲーム


ズゥオ"ォ"オ"ォォ!!ーロケット弾は文字通りお尻に火がついた状態で、自らの体をぶれさせながら彼らを目指す。
普通の神経の持ち主なら自分の飛ばした弾の行方と仲間の安否を真っ先に確認するものだが、生憎ラヴェンダーの神経は極太だった。
それだから撃つや否や踵を返してマンホールの中へ飛び込む。
彼女が一応の床に着地するのと地上で安っぽい花火が弾けたような音がしたのはほぼ同時だった。
「あ、やば。もしかして直撃とかしたかな、一応避けろって言ったんだけど」
「言ったんなら何とかするだろ、多少吹っ飛びはするだろうけどな」
罪悪感という感覚はラヴェンダーもエースも持ち合わせていないらしい、他人事のように一瞬だけ上方を見る。
「忠告があいつらに聞こえてたかどうかは話は別よ」
随分あっけらかんとしているせいか思わず聞き流しそうになるところを、レキが気付いて突っ込む。
「何とかしろとは言ったけど……お前やり方がめちゃくちゃだろ」
強くは言えない。なんだかんだで言っても、無事地下に進路を戻すことができたのは最後のラヴェンダーの一発のおかげだ。
降りて来ないハルとジェイに関しては道中で冥福を祈ることにして、レキは出発の準備とばかりに軽く屈伸運動を始めた。
  ストレッチが上半身まで行き渡ったとき、言わば忘れた頃に背後で鈍い音が立て続けに響く。
一つ目は米俵を放り投げたような重たい感触を彷彿させる、地面を揺らしたかと思うと小さなうめき声が上がった。 間髪入れず米俵の二つ目がその上に落下すると、今度は腹の底から汚いうめき声が上がった。
「くるっ、くるしっ!ジェイ早くどけよ!潰れる!!」
「痛ってぇ~……。でも生きてる~。全くラヴェンダーはやることが派手だよなぁ」
  ハルはおそらくそういう星の下に生まれてしまったのだろう、やはりというか当然というか先に落下しモロに全身を打ち付けた上 後から落ちてきたジェイのクッションとして図らずとも活躍してしまう。呻き声は両方ともハルのものだった。
見かねたエースがジェイを蹴り飛ばして粗っぽくハルを救出、砂まみれになった全身をハルは不機嫌そうにはたいた。
「……どうなることかと思ったよ。お互い元気そうで何より」
明らかに嫌味だ、レキが後ろ手に頭を掻きながら歩み寄る。
ハルが半眼で拳を出したかと思うとレキがそれに自分の拳を打ち付ける。続けざまにリズム良く平手も打ち合った。
「おう、お疲れ」
「急ごうぜ。別ルートから追っ手が来ないとも限らないし」
かなりの手痛い仕打ちにあっていながら、ハルの思考の切り替えは早い。
二人の眼球が上にスライド、響く重低音は九割ブレイマーの雄叫びやら足音である。 今追っ手が来るとしたらユニオン側でも財団側でもなく、この善悪見境のないブレイマーたちだ、 二人とも同じ事を考えたのが分かったらしく目を合わせて苦笑した。
「男同士見つめ合わないでよ、気色悪っ。それよりどうすんの?イリスはたぶん押さえられてるわよ」
ラヴェンダーが組立式バズーカを解体しながら身震いする。 確かに男同士以心伝心しても嬉しくはない、気付いて二人とも口元を歪めた。
  たいした対策も無しに地下水路へ戻ってきたものの、こうなっては地上に上がるわけにもいかない。 死に物狂いで走る必要は無くなったものの、目的地も曖昧になったため歩く気もしない。
「どうするったって……」
決定権はいつも通りレキにあるようだが最近の彼はその権利を放棄し気味である。 一刀両断できない小難しい選択が多いせいだ、開き直って突っ走る元気も今は無かった。
地下水路ルート提案者のエースも責任放棄する始末だから、この状況下で誰かが何か提案すればすぐさま採用されそうだ。 それを見越してか、シオがメモ帳をめくって皆の方へ向けた。 視線が彼女の手元に集中する。
《雨降らしの隠れ里に行くのはどうかな。あそこなら地上に出ても平気だと思う。休めるよ。》
メモに書かれたシオの字の中で一番効力があったのは、言うまでもなく最後の四文字だ。 例え彼女がその前の文にオカマバーへ行こうだとか鬼ヶ島へ鬼退治に行こうだとかを書いていたとしても、最後の四文字さえあれば全員を頷かせることができそうだ。
ジェイなんかは指を組んでシオを崇め始めている。
無論、レキも賛同したいのはやまやまだったが、ふと冷静に前文を見直す。
「それはイリスに向かうのに差し支えねえの?あくまでも目的地はイリス、北だからな。クレーターだってその先だ」
「だとよ、喜ぶにはまだ早ぇぞ」
跪いたままのジェイの首根っこをつまんで立ち上がらせるエース。彼らの言葉はジェイのひとときの夢を粉砕する威力があった。
しかし修復は再びシオのメモ用紙によって成される。
《ここ、里の外れの使われてない井戸に繋がってると思う。子どもの頃探検した覚えがあるの。 それに里には物知りのおじいちゃんがいるからルビィのことも何か分かるかも。“ユナイテッドシティから北東”っていうのは北でしょ?》
北東は北かと言われて安易に肯定するのは危険だ、しかし大ハズレというわけでもないので反応に困る。
となるともう実質多数決だ、サブヘッドコンビも口を挟まないまでも表情は哀願気味だ。
「……多少イリスから逸れるけど……行くか。このまま突っ走っても過労死だもんな」
「よっしゃ!そうこなくっちゃ!!もうこんな臭ぇとこはうんざりだしさっ」
ゲンキンなのは何もジェイだけじゃない。満場一致で雨降らしの里行きが決定すると棒立ち状態だった連中もおもむろに歩き始めた。体力的な問題もあり、あくまでのんびりだ。 中には表情のままにスキップを始める向こう見ずな整備士もいるが、5分後には静かになるであろうことが予想されたので全員放っておくことにした。
  胸をなで下ろしながらメモ帳をしまうシオ、レキが白々しく近づいて耳打ちする。
「遂にホームシック?まだ早ぇんだけどな」
ボブッーシオが赤面して平手でレキのジャケットを叩く。
シオの分かりやすい反応にレキは大ウケして、めずらしく声を上げて笑った。 そのレキの豪快な笑いに、シオが立て続けに生っちょろいパンチを繰り出して反撃するのを、更にレキが腹を抱えて笑い飛ばしている。
レキが仕掛けたプチ鬼ごっこが、楽しげに繰り広げられているのをエースはくわえ煙草でぼんやり眺めていた。
「なんだあいつら、楽しそうでいいよなぁ若者は」
久しぶりに吹かす煙草は疲労困憊の煙をぷかぷか浮かべていく。軽く一服のつもりが、気付けば鼻から口から煙りを噴出させて遠い目で二人を見ている。 どうやら一番休息にありつきたかったのはエースのようだ、 年長者の上ヘビースモーカーの彼が「若者たち」より体力が無いのは本当だ。
生気のない目で面倒そうに足を進める。
  暫く無意味な鬼ごっこをかました後、無意味な割に疲れることを遅ればせながら理解したらしい、特にきっかけはなかったがレキもシオもそそくさと歩き始めた。
ハルが後方で一部始終見ていたのか笑いを堪えている。
  水路は始めに入ったところよりも規模が小さくなっていて、天井は3メートル弱の高さにあるし、歩いている通路自体も横に3人というのがやっとだ。 不整備な環境は徐々に中心地域・ユナイテッドシティから遠ざかっていることを教えてくれる。
ただ唯一増しているのは汚水から発せられる悪臭で、のんびりムードをぶちこわすそれを極力見ないように一行は歩いた。
「そうだなぁ、強いて言うなら“good job!”かなぁ。決まっちゃいなかったんだけど気付いたらよくやってるな」
先頭を一人歩いていたレキがかなり不審そうな顔つきで振り返る。ハルの突拍子もない独り言に仰天したからだが、逆にハルからは心外そうなしかめ面を返された。